「ナイツオブザローズ講座1」



お題「どらぐーんってな〜に?」



マリアベル……ベアトリーチェ家の女中にして帝立グレムスリング魔導アカデミーの生徒。魔法の制御が苦手。ベアトリーチェに心酔している。
ベアトリーチェ……神聖ディバイン帝国の四竜将に若くして名を連ねる才女。帝国最強といわれる魔法使いでもある。過去のトラウマで男性が苦手。
ゼノビア……始皇帝ブッフバルトの娘にして皇位第一継承者。弱冠13歳ながら、大人顔負けの知識量を誇る。実は魔法が一切使えないのが悩みの種。



ベアトリーチェ「それでは講義を執り行いたいと思います、陛下」
ゼノビア「うむ、よろしく頼む」
ベアトリーチェ「今日は特別の聴講生ということで、私の女中を連れてまいりましたが(部屋の隅にちょこんと座るマリアベルを一瞥)」
ゼノビア「かまわん。その方、マリアベルというたか?」
マリアベル「は、ははは、はい!(ガチガチに緊張)」
ゼノビア「そんな端に縮こまっていては、ベアのありがたい講義が聞こえぬぞ。ささ、こちらへ参られよ」
マリアベル「は、ははははは、はい! よ、よろしくお願いします!!(ペコリと最敬礼)」
ゼノビア「ははは、そんな堅くなるな。くるしゅうない、ゆるりと聞くがよい」
マリアベル「身に余る光栄でございます! お姉さま……じゃなかった。教授、今日はどういった講義でしょうか?」
ベアトリーチェ「普段通りでいいわよ。陛下もそう望まれている」
ゼノビア「私も堅い言葉を使うのはここまでだ。よろしく頼む、ベル」
マリアベル「は、はい(なんか口調変わってないけど、これがゼノビア様なんだな。うん)」
ベアトリーチェ「さて、今日の講義は帝国の国防を支える防衛教養です。ベル、帝国の主力兵器をいくつか挙げてみなさい」
マリアベル「は、はい! えっと、大砲?」
ベアトリーチェ「他には?」
マリアベル「(うっ、戦争なんて野蛮だから全然興味なかったよ〜)お空をひらひら飛んでる、あれは何だっけ?」
ゼノビア「クスクス……もしかして、ドラグーンのことを言うておるのか? お主にかかると、帝国最強の兵器もまるで蝶か何かのようだ」
マリアベル「あははは(焦りまくり)そ、それです」
ベアトリーチェ「ふう、取り敢えず名前が挙がってよかったわ。そう、ドラグーンこそが帝国をここまで巨大にし、かつ今をもって各国に対する圧倒的な軍事優勢を誇るファクターになっているの」
ゼノビア「ん? それはちと語弊があるのでは? 各国もドラグーンを兵器として運用することに成功したと聞いておるぞ。彼らがいっせいに攻め込んできたら、数では我々と互角になってしまうではないか」
ベアトリーチェ「さすがゼノビア様。まさにその通りなのですが、テクノロジーが違うのですよ。機体の性能差が違うのです。まあ、これは後に回しますね」
マリアベル「そもそもドラグーンってどういう構造をしているんですか?」
ベアトリーチェ「ずばりな質問だけど、実は今をもって解明されていない部分が多いの。オーパーツ(オーバーテクノロジー)の塊で、実は発掘されたプロトタイプを改造したに過ぎないのが現状なのよ。ただ、その過程で判明したテクノロジーはフィードバックして、ペガススやグリフィンに応用されているわ。この二つは全て人の手によって創られたものよ。ドラグーンに比べると性能はお粗末だけど」
ゼノビア「で、つまるところドラグーンとは?」
ベアトリーチェ「神話時代に神によって作られた攻性生物兵器のことです。プロトタイプは自立意識があり、文字通りドラゴンでした。伝説に見られるような炎を吐くタイプや人語を解するものもいたでしょうね。ここではドラグーンとの差別化を図るため、プロトタイプをドラゴンと呼びます」
マリアベル「神様の僕だったんだよね」
ゼノビア「うむ。ドワーフたちはドラゴンを神聖視し、力の象徴として崇めておるぞ」
ベアトリーチェ「もっとも、実際に活動中のドラゴンは今まで見つかっていないわ。全部活動を停止してしまっている」
マリアベル「えっ、死んじゃってるってこと?」
ベアトリーチェ「そういうことね。ただ生物として素体が違うから、こうして悠久の時を経てなお、その原形をとどめているけどね」
ゼノビア「それを人がどうやって動かしているのだ?」
ベアトリーチェ「簡単に言えば魔力(マナ)です。ドラゴンの神経系を解析し、マナを流し込んで刺激を与え、動かしてる。ちょうど死んだ蛙に電流を流すと、脊髄反射で動くのに似ているわね」
ゼノビア「ドラグーンはドラゴンゾンビというわけか。ぞっとするな」
マリアベル「うわっ〜、何か乗りたくなくなってきた……」
ベアトリーチェ「まあ、見た目は限りなく機械に近い生物の死骸よ。体は筋肉のひとつにいたるまで、アダマンタイトやオリハルコンといった、解析不能な特殊金属で構成されている。おかげで、補修には別のドラゴンを用意するしかない」
ゼノビア「で、性能差が違うといっておったが、具体的にはどう違うのだ?」
ベアトリーチェ「ドラゴンは個体差が大きいのですが、手を加えることによってさらに性能に大きな差が生まれます。我々帝国軍は性能差を区分して第1世代から第4世代と呼称しています」
マリアベル「へぇ〜、第1世代は?」
ベアトリーチェ「神経系の基本を解析し、限定的な能力を行使する。例えば歩く。飛ぶ。それが可能になった状態よ。しかしその為には膨大な魔力が必要で、ゆえにパイロットは非常に限定された。正直、兵器としては運用できない状態ね。たいていの国はここまでは何とか実用化している。ドラゴンは非常に古くから発掘されているから、長らく第一世代だったということね」
マリアベル「第2世代は?」
ベアトリーチェ「魔導(マギ)の発達から魔導インバーターや魔導コンバーターが開発され、魔力の変換効率が増大し、飛躍的に稼働時間が延びた。また短時間で見るとパイロットの魔力消費量を省エネ化できたので、あまった魔力をフィードバックを利用して増幅し、魔法攻撃ができた。ディバイン建国時の大戦で始めて実用化した技術よ。こうして初めてドラグーンが兵器として人の手で運用された」
ゼノビア「開発には父上が関わっておったのだぞ(えっへん)」
マリアベル「魔法と科学を融合した魔導は革命的な技術だったんですよね?」
ゼノビア「うむ。父上はパイロットとしても超一流であった。現代のドラグーンでの戦法の大半は、父上が編み出したものとされておるぞ」
ベアトリーチェ「そして第3世代。大戦末期、帝国はドラグーンのパイロットをさらに確保するため、より少ない魔力でも運用できるよう魔導バッテリー(通称パワーストーン)を開発した。本来魔力を貯蓄するのは理論上不可能とされていたんだけど、これまたドラゴンから得られたオーパーツを応用して作り出してしまった」
マリアベル「ドラゴンさまさまなのね?」
ベアトリーチェ「そうね。これによって、第二世代まで動力源は、パイロットの魔力に全て頼っていたけど、この技術が実用化したことにより、事実上魔力がない人間でもドラグーンを操ることができるようになった」
マリアベル&ゼノビア「おお〜」
ベアトリーチェ「ただ、そのポテンシャルを最大限に引き出すには、やはりパイロットの魔力が必要不可欠。パワーストーンは有限で限定的。魔法攻撃に使えるほどの余裕はないのよ。またリミッター解除などを行えば魔力は急速に消耗される。パイロットの魔力で補助しなければ、戦闘を継続することが困難になるわ」
ゼノビア「うむむ」
マリアベル「あれ? ペガススも確かパワーストーンで動いていたんじゃなかったっけ?」
ベアトリーチェ「そうね。ペガススとドラグーンの違いはエンジンが違うということ」
ゼノビア「ふむ?」
ベアトリーチェ「ペガススは魔導機関(マギエンジン)によって推進力を得ているけど、変換効率の限界上、音速の壁を越えることはできない。人知の限界ね。一方のドラグーンはドラコニアエンジンという特殊エンジンを用いているので、同じ魔力の量から爆発的なエネルギーを取り出すことができるの。難しい話をすると、マナを全く別のこの世に存在しない物質に変換するときに、信じられないエネルギーが取り出されるのよ」
ベアトリーチェ「雲をつかむような話だにょ〜」
ベアトリーチェ「ええ、現在の最新鋭の魔導学をもってして、解明不可能よ。この世の全ての法則を無視しているから。悔しいけど、これが解明される日はまだまだ先になるわね」
ゼノビア「いや、私が解明してみせる。父上が築きあげた魔導に不可能はないことを証明してみせるのだ(ぐっ)」
マリアベル「おお〜、さすがゼノビア様(パチパチ)」
ベアトリーチェ「さらに第三世代には、ガトリング砲などの固有武装や、ハードポイントが増設されたわ。これにより予備のパワーストーンにより航続距離を伸ばしたり、空対空ミサイル、空対地ミサイル、通常爆弾などの搭載も可能になったの。まあ、実験的に第2世代でも運用はされていたけどね」
ゼノビア「して第4世代とは何なのだ? パイロットに魔力がなくても、すばらしい性能を発揮するとか?」
ベアトリーチェ「それは残念ながら……エネルギー効率はさらに上昇していますが、パワーストーンでは限界があるのですよ」
ゼノビア「(しゅんとして)そ、そうか」
ベアトリーチェ「第4世代の特徴は、一体のドラゴンを改造するのではなく、複数のドラゴンの素体を使って組み立て、コンポジット(複合)したことです。これによりある特徴を強化したり、思わぬ相乗効果を生み出しているのです。私の『フローラルエバーローズ』は第4世代に分類されるドラグーンですが、装甲を犠牲にし、徹底的に速度強化にチューンナップしてあります。これによりスーパークルーズの特徴を獲得しました。付加価値のある第4世代を特に、第4.5世代と分類する専門家もいます」
ゼノビア「スーパークルーズ……ずいぶん優雅そうだな」
ベアトリーチェ「コクピットは優雅とは言いがたいですがね(苦笑)第4世代までのドラグーンの性能では、音速の壁を超える巡航速度は得られません。これを突破するには臨界反応を起こすために大量のマナが必要になります。俗に言うリミッター解除ですね。しかし私のドラグーンは徹底したエネルギー効率の見直し、ドラコニアエンジンのカスタムチューンによって、音速の壁を越える巡航速度を得ることができました。もちろん、リミッターを解除すればもはや第4世代機でこの機体に追いつく者はいません」
マリアベル「ソニアクイーン(棘の女王)の名前を聞けば、各国の猛将も怯むと聞いています。お姉さまこそ、帝国最強の騎士ですわ(きらきら)」
ベアトリーチェ「ありがとう、ベル。ちなみに、第4世代のもう一つの特徴としてマルチロールアタックの特性も持っているわ」
マリアベル「マルチロールケーキ?」
ベアトリーチェ「マルチロールアタック! 簡単に言うと空中戦、地上戦に加えて水中戦も可能になった。気密性がアップし、ある程度の深度でも行動可能になったの」
ゼノビア「そういえば水中専用のドラグーン、リヴァイアタンもあったな?」
ベアトリーチェ「ええ、潜水専用ですね。あれは飛ぶことはできないんですよ。その代わり、かなりの深度までもぐることができます」
マリアベル「水中ではどっちが強いの?」
ベアトリーチェ「それは専用機のほうが強いわ。ただ、ある程度戦うことができるというのが重要なのよ。これで作戦用途が大幅に増えた」
マリアベル「まさに死角なしだね☆」
ベアトリーチェ「第三世代とのキルレシオは1:4.5と言われているから、圧倒的に性能が違うのが分かると思う。ちなみに第三世代機と私の機体のキルレシオは1:10と分析されているわ」
マリアベル「わぉ、一騎打ちなら無敵だにょ♪」
ゼノビア「う〜む、魔法が使えなくても何とかなる、第5世代機とかは登場しないのか?」
ベアトリーチェ「それはパワーストーンが革命的な技術で進化しなければ無理ですね。あるいは革命的に省エネなドラコニアエンジンをコンポジットによって生み出すしか……どちらも現段階では実現不可能です」
ゼノビア「(がっくり)世の中は甘くないということか……」
マリアベル「あれ〜? ゼノビア様、やけに魔力の省エネにこだわってらっしゃいますけど、帝国最強の魔法使いであるゼノビア様には杞憂な問題では?」
ゼノビア「(うぐっ、まさか私が全く魔力がないなんて口が裂けてもいえないな……)あ、ああ。それもそうだな。あはは……」
ベアトリーチェ「コホン(ここはゼノビア様をフォローしなければ)マリアベル、陛下に意見するとはたいそうな了見ね?」
マリアベル「はっ、ししししし、失礼しました! 私ったら、ついつい馴れ馴れしく! 本当に申し訳ございません!!!!」
ゼノビア「よいよい。大の大人たちも私に遠慮して、正直やりにくいと感じていたのだ。お前だけでも、年相応に接してくれると私は嬉しい」
マリアベル「は、はい! ありがとうございま……じゃなくてありがとう♪」
ゼノビア「(機嫌を良くして)うんうん。今後もよしなに、な」
ベアトリーチェ「(ベルをゼノビア様の息抜きにと連れて来て正解だったわね)それでは今日の講義はこれまでで」
ゼノビア「ああ、大変参考になった。ベアが上申している防衛技術研究本部の予算について、善処しよう。穏健派が多数を占める元老院を納得させるのは骨が折れるが」
ベアトリーチェ「ありがとうございます。政治は経済、外交、軍事によって成り立っています。このどれが欠けても、世界のリーダーシップを発揮するには至りません」
マリアベル「あの〜、難しい話はもう終わったのでは〜?(汗)私、その、お馬鹿で……あはははは……」
ゼノビア「おっと、無粋なことをしてしまった。そうだ、ベアよ。良い、葉が手に入ったのだ。私のお気に入りの茶器で淹れてはくれないか?」
ベアトリーチェ「かしこまりました」
マリアベル「わわわわわっ! お姉さまが動くことないですよ! 私が淹れます!!!」
ベアトリーチェ「いいのよ、ベル。今日のあなたはお客様よ」
ゼノビア「うむ。臣民たちの世間話でも聞かせてくれないか。お前の趣味でもいい。とにかく堅い話はもう飽きた」
マリアベル「(嬉々として)あ、はい! えっと……」



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